まったり後嵐、ヌタハラ谷

蓮川では奥の平谷に次ぐ秀渓として知られるヌタハラ谷は、沢登りのガイドを見ると、遡行者を有頂天にさせる谷、等と書いてあったりするし、登り詰めた所が桧塚奥峰の笹原というのも大変魅力的なので、以前から行きたかった谷です。色々な記録を見てもそれほど困難な谷ではなさそうだし、日帰りでも充分遡行可能なようですが、ここでのんびり1泊しながら秋のしっとりとした沢を楽しもうとこの連休に計画しました。しかし、今回ばかりは日頃の行いの良さも天には通じず、あいにくの空模様になりそうでしたが、まぁそれほど大崩れになることはあるまい、と予定通り決行としました。

山 域 (台高)櫛田川水系蓮川ヌタハラ谷
場 所 三重県南西部
日 時 2003年10月12日(日)〜10月13日(月)
コース 10/12 ヌタハラ谷出合→夫婦滝→不動滝→二俣手前の炭焼小屋跡地にて幕営
10/13 幕営地→ヌタハラ谷本谷遡行→桧塚奥峰→桧塚→桧塚東1214地点より下降→ヌタハラ林道→ヌタハラ谷出合
メンバー たこやきさん、KUROさん、oba (3名)
天 気 10/12 曇り時々雨    10/13 雨後曇り

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10/12
例によって青田川発電所にて前夜泊。夜中にはかなりの降雨があったようだが朝には小降りになっていたので出発。ヌタハラ谷出合に車を置いて林道を少し歩いて林道が大きく右にカーブする所から7時50分頃に入渓。お天気は概ね曇りで時々小雨がぱらつく程度で遡行には支障なし。ここ数日来雨も少なかったので谷の水量もかなり少な目か。

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多段滝をどう越えるか思案する
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10m斜瀑の左岸を越える
入り口付近からしばらくは林道工事の影響か、谷の中はかなり荒れ気味で、倒木で埋め尽くされたり両岸が崩れたりしている所が目に付く。せっかく綺麗な谷がこれでは台無しだ。昔の綺麗な状態だったらどんなに素晴らしい景観だったろう、と思わせるところが何カ所もあった。

それでもナメ滝を越え、多段滝のチムニーをザックの吊り上げでこなしながら進むうちに、周りは自然林に変わりいい雰囲気になってくる。5,6mから10m位の滝はひっきりなしに出てきてそれがほとんどそれほどの困難もなく登れるので、なるほど遡行者を有頂天にさせる谷、というのもうなずける。

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夫婦滝上段の滝
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ゴーロ帯を越えて進む
快調に前進するうちに、前方におよそ30m程の大滝が出現。どうやらこれが夫婦滝か。上部は岩壁に遮られて伺い知れないが、まだ上にも大きな滝が続いているようだ。ここは右手のルンゼから巻きにかかる。ズルズル滑るルンゼを登り下段の滝を巻き終えたら、壁の間から50m以上はあると思われる上段の大滝が落ちているのが木の葉越しに見えていた。凄い!!どうやら上段、下段の滝の間にも中段の滝があるようで、全部合わせると100m近い落差の大滝なようである。

上段の滝は、木の根をつかみながらのモンキークライムでトラバース気味に巻き上がる明瞭な巻き道が左岸岩壁に付けられていた。巻きの途中、恐る恐る下を覗くと、凄い迫力で大滝が落ちているのが望める。この滝の巻きの途中、後ろから小さなザックにハーネスも着けない軽装の6人組が凄いスピードで駆け抜けるように我々を追い越していった。どうやら地元の沢慣れた人達なようだ。

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ナメ滝を越えて
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連瀑帯を快適に越える
夫婦滝を巻き終えるとしばらくゴーロ帯が続き、岩の乗っ越しが谷中泊の重荷を担いでいるのでしんどい。ゴーロ帯を過ぎ、幅広のナメ滝を越え、4〜8mぐらいの滝が何段も続く連瀑帯を快適に越えていくと、ハングした岩壁から降ってくるような不動滝が出現。2段になっていて、下段は15m幅広滝、上段は35mの直瀑、合わせて50mの堂々たる大滝だ。

まだお昼前で時間も早いのでここで滝を見ながらお茶を沸かしてゆっくりと大休止とする。不動滝の上部は霧に煙っているようでよく見えなかったが、突然空が明るくなり晴れてきた。青空まで出てきて日も差してくる。滝の上部近くの木々は一部紅葉していて素晴らしい景観を作り出していた。この素晴らしい眺めを独占しながらの腹ごしらえに大満足。

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不動滝50m
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不動滝上部には紅葉も見られた
休憩後不動滝を左岸から大きく巻き上がると、両岸がV字状に切れ込んだナメ床が現れ、これをジャブジャブと進みしばらくで左岸側にテン場に絶好と思われる炭焼き小屋跡の台地があった。まだお昼過ぎの1時前で時間はかなり早かったが、今日はのんびりまったり秋の沢を楽しむ、というのが目的なので本日の行動はここで終了。

ザックをおろし、テントを設営、薪を集め焚き火の準備。まだ明るいうちから焚き火を焚いて、お茶を飲み、夕食の鍋をつつき、やがて日も暮れてのんびりまったりとした時間が過ぎていく。時折雨はぱらつくが焚き火を囲んで宴会するのに支障があるほどでもなし。何が面白いといって、これが一番の楽しみで重い荷物を担いでこんな谷奥までやって来たのだ。ウダウダとたわいもない四方山話もまた楽し。暗闇の中で焚き火は時折降る雨もものともせずに静かに燃え続け、夜は深々と更けていくのであった。
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V字状ナメ床を進む
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テントを設営、焚き火の準備
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燃え上がる焚き火

10/13
翌日は朝から雨。時折強く降る。しかしヌタハラ谷の核心部はもう過ぎたし、あとは稜線まで高度差300m程の登りだけなのであわてることはない。のんびりと朝食を済ませ準備をして8時半頃出発。

すぐに桧塚への分岐の二俣。ここは左俣の本谷を進む。次の大きな二俣も左へ。小滝をいくつか超えていくと2段30mぐらいの滝に出合い、これは左の草付壁を登る。このあたりから雨はかなり強くなり、水の音で気が付かなかったがどうやら雷も鳴っているようだ。時々ピカッと稲光が光るのもわかるようになってくる。

その次に出てきた25mぐらいの滝(これがアザミ滝か?)は右岸泥壁を巻き上がっていくが、この巻きの途中であまりに雨と雷がひどくなってきたので、泥壁に張り付いたまましばらく待機。しばらく待ったら雨、雷も収まってきたようなので巻きを再開。滝の落ち口までのトラバースで慎重を期してこの谷で初めてザイルを使う。

この先の二俣で15mぐらいの3段滝を左に見ながら右俣に入り、最後に15m程の直瀑を左に見て右のほとんど水の切れたルンゼをズルズルと滑りながら登っていくと、やがて斜面は笹の原に変わり、そのまま喘ぎながら登り続けると強風の吹き荒れる尾根上に出た。どうやらここは桧塚奥峰から派生している支尾根上だと思われたので、ガスの中にぼんやりと見える一番高い所を目指して登り詰めていったらそこが桧塚奥峰だった。10時50分。

雨は小雨程度だったが風が強く寒くてゆっくりと休憩もできないのでそそくさと桧塚を目指す。しかしガスで道がよくわからず方向を間違えて全然違うピークに行ってしまった。すぐに間違いに気が付いたが、丁度いい具合に風もよけられる場所だったのでとりあえずお湯を沸かして休憩。

雨はほとんど止み風も収まってきた。桧塚からの下山ルートは地図を見ながらの鳩首会談の結果、桧塚東1214m地点より真南に100m程下降してから東寄りにトラバース気味に下降し尾根に出るルートに決定。急斜面を南に強引に下降、やがて植林帯に入り東寄りに下降していくと思惑通り尾根に乗る。そのまま尾根上を下降していくと、標高830m付近で突然真新しい林道に出てしまった。

こんな標高が高い所に林道が来ているなんてことは全く考えていなかったので、はたしてこの林道がどこに通じているのかわからなかったが、とりあえず林道をどんどん下る。長い林道歩きにいいかげんウンザリしてきた頃、前方に昨日入渓点で見たブルドーザーが見えてきた。なんと全く予想外のことに、うますぎる具合にヌタハラ谷出合に戻ってきたのだった。14時50分。

ヌタハラ谷は、入口付近は荒れ気味だが中程から先は連瀑、大滝、ゴルジュが続く素晴らしい谷でした。今回は悪天候を承知で入ったのですが、1日目はそれでも核心部を快適に抜けて焚き火宴会を楽しむことができて大満足。2日目は、かなり荒れ模様の天候の中の遡行と下山ルート探しに結構時間を食ったりしたが、これはこれでまた別の意味ですごく面白かったのでこれも満足。まったり後嵐の波乱に富んだ沢遊びを無事終えることができたことで、同行の皆さんにも心から感謝する次第です。

たこやきさんのヌタハラ谷レポートはこちらです。


END