白川又川奥剣又谷から八経ヶ岳へ

大峰を代表する谷といえば何と言っても白川又川(しらこまたがわ)である。その白川又川本谷は、奥剣又谷(おくつるぎまただに)と名を替え、大峰山脈の盟主、弥山から八経ヶ岳、明星ヶ岳へと続く稜線に突き上げている。奥剣又谷の遡行記録は、源流部の二俣を左に入り、最後は明星ヶ岳付近に出るものが多くあり、また右俣の記録もいくつか見られるが、最後は弥山−八経ヶ岳の鞍部付近に出るものが多い。その中にあって、近畿最高峰八経ヶ岳のピークにダイレクトに出るというルートがあることを知ったのは、小山伏&キンゴの沢雪山歩ペアによる2001年秋の記録を見てからであった。それ以来、この痛快ルートは私の憧れのルートとしていつか遡行してみたいと思い続けていた。しかし私ごときの沢のレベルでは手に余るルートでとうてい無理だと半ば諦めていたが、今回、このルートの経験者である小山伏さん(海外遡行同人)に同行をお願いしたところ快く同意していただき、思いもかけず実現することができた。
【山 域】(大峰)北山川水系白川又川奥剣又谷
【場 所】奈良県南部
【日 時】2003年 7月20日(日)〜7月21日(月)
【コース】
7/20 行者還トンネル西口→弁天の森・聖宝宿の鞍部→水晶谷下降→白川又川水晶谷出合→口剣又谷出合(口剣又谷出合上流にて幕営)
7/21 奥剣又谷遡行→八経ヶ岳→弥山小屋→行者還トンネル西口
【参加者】小山伏さん、Taqさん、BAKUさん、じゅんちゃん、oba (5名)
【天 気】7/20 曇り時々小雨 7/21 小雨時々曇り


ルート概要図はこちら


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(写真の一部は、Taqさん、BAKUさん提供のものを使用させていただきました。)

7/20
前夜より行者還トンネル西口にてテン泊、朝、装備を担ぎ出発。奥駆道に出るまでの急斜面を、日帰り軽装の登山者に次々と追い越され、谷中1泊装備の重さに喘ぎながら登る。やっと稜線の奥駆道に出て右へ。弥山に向かう道はさすが朝早くから人の往来が多い。登攀具やヘルメットをぶら下げた我々の装備を見て、「そんな重装備でいったいどこから登ってきたのですか?」と、軽装の登山者に不思議そうな顔で尋ねられたが、「いや、今から登りに行くんですよ。」と応えると、更に不思議そうな顔をしていた。
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水晶谷下降
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懸垂下降
しばらくアップダウンの道を行き弁天の森と聖宝宿の鞍部に到着。ここより水晶谷を目指して下降開始。藪の急斜面はすぐにガレガレの急斜面に変わり、時折足元の不安定な岩が崩れ、「ラクー・・・」の叫び声が何度も響き渡る。やがて水流も現れ沢らしくなり、水晶谷に入り下降を続ける。

水晶谷は、途中小滝を降りるのに懸垂下降が1カ所あったが、たいした悪場もなく下降。しかし、結構な距離でかなりの時間を費やし、本谷出合直前の3段20m滝前に着いた頃にはお昼を回っていた。コーヒーを沸かしての大休止の後、水晶谷最後の3段20m滝。ここは、水量が少なければ容易に降りられるようであるが、今日はかなりの水量のため慎重を期し、小山伏さんがハーケンを1枚打ち込み捨て縄を掛け懸垂で降りる。この滝を降りるとすぐに本谷との出合に到着。

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本谷ですぐに出合う滝
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全身を突っ張りゴルジュを突破
水晶谷出合付近の本谷は、側壁がそそり立ちいかにも険しそう。いよいよ奥剣又谷の遡行開始に胸が高鳴る。本谷を進むとすぐに最初の大滝に行く手を阻まれる。この大滝は落差こそ20mそこそこであるが、本谷の全水量が落下する様は実に凄まじく、すごい迫力だ。しばし滝見物の後、ルートは左手のガレガレのルンゼに取る。このルンゼを大きく高巻くと時間がかかりすぎるということで、先頭の小山伏さんはショート巻きで滝の落ち口付近に出るルートを選択。ここの通過が本日の核心部であった。

ルートは、ガレガレのルンゼをしばらく登り、右手にトラバース気味に子尾根を乗り越して滝の落ち口に出るものであるが、このトラバースが実に悪い。小山伏さんがトップでザイルを引き、途中でザックを置き空身で進み、後でザックを吊り上げるという方法で通過、ザイルをフィックスして後続が続いたが、足元の泥壁はグズグズ、手がかりはボロボロの岩で、ここを5名が通過するのに2時間近くの時間を費やした。

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口剣又谷出合で、
本谷は滝となって出合う
大滝の上に出た時には喉はカラカラ、かなりのエネルギーを消耗していたが、まだまだ先は長い。ここからは、大岩を乗り越え、ゴルジュを全身で突っ張りながら通過。左の谷が30mの滝となって出合う二俣を過ぎ、やがて口剣又谷出合に到着。本谷は右手、20mの直瀑となって落ちている。左を巻き上がり口剣又谷出合の滝上に出た所で既に夕方5時も過ぎているので、僅かばかりの平坦地を見つけてテン場とすることに決定。やっと荷を下ろすことができた。

早速テントを設営、薪を集め焚き火の準備。薪が連日の雨のため湿っていてなかなか火付きが悪かったがなんとか燃え上がり、夜のお楽しみ「居酒屋小山伏停」の開店。本日のメニューは、冷しゃぶに揚げ茄子、仕上げは揚げ餅という豪華版にもう満腹満腹。飲んで食べて、本日のハード行動の疲れも手伝って皆9時頃には早々にテントにもぐり込み寝入ってしまった。


7/21
朝5時に起床。夜中に一雨あったようだが、今のところ天気は曇り空。前夜炊いておいた飯盒の御飯とみそ汁で朝食を済ませ、テント撤収、荷物をまとめて出発。本日は、八経ヶ岳頂上まで標高差約1000mの長丁場だ。歩き出したら小雨が降ってきて、その後もずっと小雨が降ったり止んだりの天気が続いた。
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ペットボトルの形をした滝
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ペットボトル滝の落ち口にて
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豪快な谷が続く

途中25mペットボトル滝を越え、しばらくゴーロ帯を進むと地形図にある明瞭な二俣に到着。ここで右へ入ると、弥山−八経ヶ岳の鞍部に出てしまうため、ここは一旦左俣へ入る。すぐ次にある二俣で右俣を選択。このあたり、地図を良く見てルート判断をしないとルートを誤ってしまい、目指す八経ヶ岳のピークにダイレクトには出られないということになってしまう。この右俣谷が実に素晴らしかった。白い岩盤の階段状の滝が延々と続き、快適に高度を稼げる。途中長いナメも現れ、まるで黒部の赤木沢を思わせるような景観が続いていた。

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右俣谷に入り遡行を続ける
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階段状の滝が続く
途中何カ所かザイルのお世話になった所もあったが、概ね快調に遡行を続け、やがて水量も少なくなり両岸が狭まり壁が立った奥に15m滝が出現。ここで、それまで快調に進んでいた前進が阻まれる。BAKUさんが滝を登るルートを偵察に行ったが、登るのは無理と判断、右手泥壁を登り巻き上がるルートを選択。小山伏さんが絶妙のルート工作で滝上に最短で出られるルートにザイルをフィックス、後続が続いた。しかしこの巻きも、グズグズ泥壁にボロボロ岩、朽ちた木々と、実に悪かった。この滝を越えたところで水流はほとんど無くなり、岩が不安定に積み上げられたガレ場が上に続いていた。

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何処までも続く階段とナメ
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両岸狭まり壁が立ってくる
ガレ場を登って適当なところで左手の樹林の生えた尾根に逃げ、針葉樹原生林の藪をこぎながら西向きに登っていくと、どうやら八経ヶ岳の南東に派生している子尾根に乗っかったようなので、進路を北寄りに取りそのまま尾根を登り詰めると垂直の岩壁にブチ当たってしまった。これはおそらく八経ヶ岳から明星ヶ岳寄りにある壁に違いないと思われたので、その岩壁の基部を右手真横に進み、岩の隙間から上に出られそうな所があったので先頭のBAKUさんが這い上がっていった。上から「出たぞー。」というBAKUさんの声。obaが2番手に這い上がっていったら、なんと八経ヶ岳の頂上看板の真裏に飛び出した。やったぞ!!ついに出た。八経ヶ岳頂上にダイレクトに出たのだ。後続隊も続いて到着。感激の瞬間、パーティー全員で固い握手を交わす。

頂上は、ガスにおおわれ景色も何も見えないし、時間もかなり遅くなっているので我々以外に誰も人はいない。、感激に浸りながらのしばらくの休憩、写真撮影の後、雨が強くなってきたので早々に下山することにして、ぬかるみの登山道を弥山小屋に向かった。弥山小屋を経て奥駆け道を東へ進み、行者還トンネル西口への分岐から急斜面を泥だらけになりながら下山。トンネル西口に留めた車の所に全員が到着したのは、もう夕方6時半を回っていた。

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原生林の薮を漕ぎながら登る
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ついに八経ヶ岳登頂
2日間に渡るこの痛快ルートの遡行は、私にとって長く記憶に残りそうな山行であります。しかし、さすがに4級の沢だけあって、久しぶりの全身にしみ渡る疲労を味わった山行でした。下山後2日間ぐらいは全身の筋肉痛でまともに歩けない状態が続いていました。しかしこれも実に心地よい疲労でした。私のようなレベルの者ではとうてい難しいこのようなルートを、良き仲間、良き同行者を得て走破できたことに、ほんとうに心から感謝いたします。

END