山スキー入門(道具編)


山スキー入門といいましても、ここでは主に山スキーの道具について若干の解説をするに留めます。実践面での山スキーの技術論については、私自身、他の人に教える程経験豊富な熟達者というわけではありません。

実際に山スキーをやってみようと思った人は、ぜひ、先に挙げた参考文献等を熟読し、経験豊富な指導者の指導を受けて実践の道に入っていってください。

山スキーは結局のところ雪山登山ですから雪山登山の訓練が必要になりますし、スキー滑降技術は結局のところ基礎スキー技術を徹底してゲレンデで練習する、ということになります。何事も自己流でやるより、基礎的なことから優秀な指導者の下で練習する方が上達は早いものです。(私自身の自戒も含めて)

■最初に
■山スキーの道具を知ろう
■スキー板 ■ビンディング
■シール ■ブーツ
■ストック ■スキーアイゼン(クトー)
■服装 ■その他
■道具編、の最後に ■私の山スキー道具紹介のページ

■最初に(しつこいようですが)

山スキーをやってみたいと思ったあなた!!もう一度、確認してください。ゲレンデを飛び出せばそこは厳しい自然の掟が支配する雪山の世界です。ゲレンデの延長とは全く違うことをはっきりと認識してください。

自然は人間の命ぐらいいとも簡単に奪ってしまいます。ただ新雪の斜面が滑りたいから、とかいうような安易な考えで雪山に踏み込むことは自殺行為です。近年、パウダーに飢えた若いスノーボーダー達が、雪山のことなど何も知らないまま、それまで安易に誰も踏み込まなかった斜面に踏み込み、当然のごとく雪崩の犠牲になるという事故が多発しています。

スキーで滑るのに絶好な斜面はイコール雪崩が起きやすい斜面であるということを知らなくてはなりません。

もう一度言います。山スキーは雪山登山の一形態であることを、はっきりと認識してください。

それと、ここで私が紹介している山スキーの道具に関するいろいろな解説はほんのサワリにすぎません。実際に山スキーを実践してみようと思った人は、ぜひ、経験豊富な指導者の下で、その実際の使い方の指導をきちんと受けて下さい。
   頂上を目指してスキーを駆使して登る
■山スキーの道具を知ろう

残雪期の春山で、スキー場の上部から少し登って滑るとか、滑り主体の山スキーツアーであれば、ゲレンデ用アルペンスキーの道具でそのまま山スキーツアーに行くことも可能ではあります。実際、GW頃の立山や栂池周辺では、そのようなスキーヤーが多くいます。しかし、山スキーの本場ヨーロッパアルプスで発達した最近の山スキー用具の進歩は著しく、それらの道具の登高、滑降機能は極めて高く、本格的に山スキーをやってみようと思う人ならぜひ専用の道具を使うことをお薦めします。特に山スキー用ビンディングとシールは、これ無くしては山スキーはできない、といっても過言ではありません。

■スキー板
スキー板は基本的にはアルペンスキー用のものと同じと思っていいです。山スキーに適したものとは、軽くて丈夫で滑降性能が良い、ということになるのですが、そんな3拍子揃った板はなかなかありません。一昔前の山スキー板は、幅広ずん胴でトップの反りが大きく硬いベンドのものが多かったですが、近年のカービングスキー全盛の時勢にあって、山スキー用板もだいぶ様変わりしてきました。特にカービングタイプとは言っていなくてもサイドカーブはかなり深めで、柔らかく且つ返りのいいスキーが多くなっているようです。

要は自分のスキー技術に合った板ということになるわけで、基本的にゲレンデ用板を選ぶのと同じ考えでいいと思います。ただ、担いだり登りのことを考えると、少しでも軽いもの、ということになりますね。また、深雪、悪雪を滑ることが多いので、極端にセンターを絞った物より幅広なセミファットタイプの方がいいと思われます。

山スキー専用の板も、ダイナスター、アトミック、ケスレー、トラープ、等からいくつかでていますが、最近はフリーライド用カービングタイプを山用に使っている人も多いようです。

■ビンディング
何はなくとも、山スキー用ビンディングだけは、これが無くては山スキーはできない、といっても過言ではありません。即ち、歩行・登高モードと、滑降モードの切り替え機構があって、歩行・登高モードでは踵がほぼ90度まで上がり、スキーを履いたまま容易に歩くことができて、滑降モードでは踵を固定しアルペンスキーの滑降技術で滑ることができる、というものです。ですからビンディングは山スキー専用のものを使う以外に選択肢はありません。

最近では、フリッチ(スイスのメーカー)のディアミールIIの評価が高く、ほとんどの山スキーヤーが使っています。それ以外には、ジルブレッタ、エメリー等というメーカーもあります。しかし、今のところディアミール以外には、これに変わるものはしばらく出てきそうにない、というのが正直なところですね。

(フリッチ  ディアミールII のメーカーの紹介ページ)



フリッチ ディアミールII

滑降モードは、普通のアルペン用ビンディングと同じ。ステップイン&セイフティー機能を備えている。



登高モード(ヒールアップモード)で登高支柱(クライミングサポート)を立てた状態。登高支柱を使うと、急斜面での足首への負担が軽減できる。


山スキーでは、このビンディングとシールとの組み合わせで、スキーを履いたまま斜面を登る、というのが登高の基本であります。
    ヒールアップで楽に歩ける

■シール

ヒールアップビンディングと組み合わせて、スキーを履いたまま山の斜面を登るためのスキーのソールに付ける滑り止めの毛皮みたいなものです。これも山スキーには無くてはならないものです。山スキーでは、スキーを担いで登ってしまっては面白さが半減なのです。スキーは滑るための道具ですが、雪の山を登るための道具でもあります。スキーを駆使して雪山を登ることも山スキーの面白さのひとつなのです。最近の軽量のヒールアップビンディングと高性能のシールを使えば、ワカンやツボ足で登るよりも遙かに少ないエネルギーで雪の山を登ることができます。

シール(seal)とは英語でアザラシのことですが、昔のシールは本物のアザラシの毛皮で作られていてその名前だけが今も残っています。毛の生えている向きが一定方向のため、前には容易に滑るが後には毛が雪面に引っかかり滑らない、という魔法の毛皮なのです。


     シールを利かせて斜面を登る

現在のシールは、モヘヤ製、ナイロン製がほとんどで、特殊な接着糊でスキーのソールに貼り付けて使います。トップだけに取付フックがついたものと、トップとテールの両方にフックがついたものの2種類がありますが、両フックのほうがはがれにくいので、扱いになれないうちは両フック式の方がいいでしょう。
    両フック式モヘヤシール(コルテックス製)

■ブーツ
滑降の時はスキー靴のようになり、歩くときは登山靴として充分な機能を持つ靴、というのが山スキーブーツの理想ですが、そんなブーツはありません。

今のところ、山スキーでのブーツの選択肢は3つあります。

まず第1は、歩きに重点を置いて積雪期用の登山靴を山スキーに使う、ですが、登山靴でスキー操作を行うのは、はっきり言って至難の業です。

第2の選択肢は、滑り重視で多少の歩きにくさは我慢してスキー靴を使う、というものです。このブーツ選択は山スキーのエキスパートの人たちにはけっこう支持されていますが、やっぱり長時間の歩きには苦痛が伴うのは仕方ありません。

そこで第3の選択肢が、山スキー兼用ブーツ(ツアーブーツ)となるわけですが、はっきり言いまして兼用ブーツは所詮スキー靴と登山靴の折衷の産物でありまして、スキー滑降の性能は登山靴に比べれば比較にならないくらい優れていますが、スキー靴に比べれば数段劣るのは仕方がないことです。兼用ブーツにも、より歩きに重点を置いたもの、あるいは、滑りに重点を置いたスキー靴に近いもの、という傾向の違いでいくつかの種類があります。

結局のところ、その人がどんなスタイルの山スキーを指向するかでブーツの選択が決まる、と言っていいのですが、今のところ、ノルディカ、スカルパなどの兼用ブーツは、昔の兼用ブーツに比べれば格段に滑降性能も良くなり、それでいて歩き安さも兼ね備えていてお薦めだと思います。

山スキーヤーたらんとする者は、ゲレンデにおいても兼用ブーツで滑り、兼用ブーツの特性に慣れておくのがいいのでは、というのが私の考えでもあります。
 ノルディカTR9、現在はTR12というモデルが出ている

■ストック
ストックは、ゲレンデで使い慣れたものでいっこうにかまわないと思います。ただ、厳冬期のラッセル用にはやっぱりリングの大きなものが必要なので、リングだけ大きめのものに取り替えるのがいいでしょう。

山スキー用としては、3段式の長さ調節式のものとか、2本つないで雪崩埋没者捜索用ゾンデになるものとかあります。

■スキーアイゼン(クトー)
これはたいていのビンディングの付属品として別売りになっているものですが、固い急斜面を登るときにシールだけではスリップしてしまう場合、ビンディングに雪面にくい込む歯状の金具を取付ます。スキー板に取り付けるものと、ビンディングプレートとブーツの間に挟み込むものとの、二つのタイプがあります。

これを駆使すれば、かなりの急傾斜のクラスト斜面でもガシガシと登ることができる、というものです。また、残雪期のザラメ雪斜面で斜登高する場合、スキーが横ズレしてスリップしやすいのですが、スキーアイゼンを付ければかなり横ズレしにくくなり登りやすくなります。
 ディアミールII にクトーを装着した状態

■服装
まさかゲレンデのスキーウエアで山スキーに行くなんていう人はいないでしょうね〜。山スキーとはれっきとした雪山登山ですから、服装の基本は雪山登山ウエアに準じるのは言うまでもありません。山屋さんには周知のことなので、詳しくは省略します。

■その他

ザック:背負いやすいアタック型ザックで、時にはスキーを担がなくてはならないので、ザックの両サイドにスキー板をビシッと取り付けられる物が必要です。

アイゼン
:シールでは上れないような急斜面、アイスバーンを登る場合必要です。

ピッケル:山スキーではピッケルを積極的に使う場面は、急峻なルンゼを登って滑るというようなエキストリームスキー以外あまりありませんが、急斜面をスキーを担いで登る場合とか、ザイルでの確保支点とか、で必要な場合もたまにあります。

ザイル:これも使う場面はほとんどありませんが、谷底に物を落としてしまってひろいに行くとか、スリップしたらちょっとヤバイとかいうような場面が絶対無いとは限りません。

スコップ:これは雪山の必需品です。雪崩対策、緊急ビバーグ時の雪洞掘り用、等々。軽量で丈夫な物がいろいろ出ています。ピッケルの柄に付けて使うタイプがコンパクトで便利。

ビーコン&ゾンデ:ビーコン&ゾンデにスコップを加えた雪崩対策3点セットは雪山の必需品です。しかしこれは、雪山で万が一雪崩に巻き込まれた時に生還する確率をほんの少しだけ高くしてくれるものにすぎない、ということを知っておかなくてはなりません。これを持っているからといって安心できるというようなものではありません。大切なのは、雪崩のことをよく知り、雪崩に遭わないようにすることです。

工具類:山の中でビンディングのトラブル、シールのトラブルというのは命取りになりかねません。ちょっとしたトラブルぐらいは対応できるような非常用工具は常に携行したいものです。具体的には、ドライバー、プライヤー、ガムテープ、ビニールテープ、針金、ビス類、接着剤、等々。
■道具編、の最後に

以上、ざっと簡単に山スキーの道具について説明してきましたが、これらの道具は日進月歩で進歩しているものです。もう私の言っていることは既に時代遅れになっているものもあるかもしれません。あとは専門の解説書を読むなり、経験豊富な指導者の指導を受けるなりしてください。

道具が揃えば、あとはいよいよ実際に雪の山に踏み行って実践経験を積むことになるわけです。

この、山スキー入門の実践編を解説するほど私は実践の経験が豊富なわけではないので、ここからの続編はいつのことになるのかわかりません。近い将来、この続編がアップされるかもしれませんが、あまり期待しないように。

それでは、スキーを履いて、どこかの雪の山で会いましょう。シーハイル!!
私が使っている山スキー道具を紹介します。(今となってはちょっと旧式の物が多いので、そろそろ買い換えたいです。特にビンディングは絶対にディアミールIIにしたい!!)

私の山スキー道具紹介のページ